「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」感想子役の演技が童心に帰らせてくれる一方で考えさせられる作品

ヒューマンドラマ

全編iPhoneで撮影した前作「タンジェリン」で注目されたショーン・ベーカー監督が今度は35mmで撮影した「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」は社会の底辺で生きる親子の日常をリアルかつカラフルに描いています。

監督・脚本:ショーン・ベイカー

キャスト

ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)  ヘイリー(ブリア・ヴィネイト)

ボビー(ウィレム・デフォー) ジャンシー(ヴァレリア・コット)

スクーティ(クリストファー・リヴェラ)他・・

「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」あらすじ

フロリダ州オーランド、ディズニー・ワールド・リゾート・マジックキングダムの華やかな世界の傍の安いモーテル群の中のひとつ「マジック・キャッスル」

宿泊客よりも売春などでその日暮らし生活を送る住人が大半でそんな環境のなか明るく無邪気に暮らすムーニーは近所の悪ガキ仲間のスクーティーやディッキーと共に毎日を自由奔放に過ごしていた。

ある日隣のモーテル「フューチャーワールド」に引っ越してきたジャンシーとひょんな事から友達になった彼らだったが、住居を追われ親と共にディッキーは引っ越してしまう。

ディッキーが去った後も悪ガキ共の毎日は変わらず楽しい日々を過ごしていたがある日、興味本位で忍び込んだ空き家で火遊びしたことが原因で彼らの夢のような日常に現実が影を落とし始める。

「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」感想(ネタバレ)

フロリダ州オーランドのディズニーワールドの近くで暮らす親子のごく普通の日常をテーマにした作品で子供の目線で捉えた夏休みの日常がカラフルで夢の世界にいるような錯覚に陥ってしまいます。

その一方でもともと観光客向けだったモーテルが廃れてストリップや売春などで食いつなぎながらそこを最後の砦として住み続けている人たちの現実が垣間見える部分もありそんな深刻な面をもゆるいタッチで描写して幻想的にまとめてあります。

ストーリーの中心はヤンチャな子供たちでそれを取り巻く大人達もどこか味があって憎めません。

毎日モーテル内は勿論、界隈のお店なんかも巻き込んでやりたい放題の悪ガキ共、それを見守る母親自身もまだ子供と言っていいくらい無鉄砲で世の中をわかってなくて、そんな親子にいつも振り回され説教しながらも暖かく見守る近所のお節介おじさん的なモーテルの支配人と言った人物が織り成す人間ドラマは観るものをホッコリとさせてくれて

国や文化の違う遠いアメリカのことがなぜか東京の下町の人情物語のように思えてしまうくらい身近に感じられます。

自由奔放に遊び回る子供達を見てると事故や犯罪に巻き込まれそうでハラハラしてしまうんですが何事も起こらず途中から逆に何かアクシデントというか見せ場みたいなものを少し期待しながら結局最後まで比較的穏やかな日常が過ぎていきます。(しいて言えば火事のシーンが見せ場であり物語の転機でもあります。)

でも不思議と退屈しないどころかあっという間に111分が過ぎていきました。

おそらくこれはキャスト、ムーニーやスクーティ、ジャンシー、ディッキーと言った子供たちの無邪気な演技がメチャクチャ可愛くて引き込まれてしまったからに違いありません。

子供たちは勿論なんですがダメな母親ヘイリー役のブリア・ヴィネイトもハマってるし

往年の名優ウィレム・デフォー(プラトーンのエリアスが浮かんでくる)の演じる支配人ボビーなんか味があって良かったです。(途中からいかりや長介に見えてきた)

また劇中の音楽や映像からマイアミとかオーランドのヤンチャでスタイリッシュなノリみたいなのが感じられてカッコ良かったです。(ヘイリーとアシュリーが土曜の夜に遊びに繰り出すシーンとか)

物語はムーニー達が暮らすモーテルの隣のモーテルに引っ越してきたジャンシーの一家とのトラブルから始まります。

ジャンシーの祖母の車に唾を掛けて遊んでいたムーニー、スクーティ、ディッキーの3人はそれがきっかけで仲良くなり、親同士も歯に衣着せぬ物言いでそれがこの界隈の常識とでも言うようにあっという間に仲良しになります。

新たにジャンシーを加えた悪ガキ共はモーテルの機械室に忍び込んで停電させたり、豊胸手術した年老いたオネエをからかったり好き放題やってたんですが、ディッキーが引っ越す事になります。

おそらく家賃滞納で退居せざるをえなかったと思われるんですが、そんな現実がサラッと要所要所で盛り込まれているのがこの作品の魅力でもあり考えさせられる部分です。

3人になった悪ガキ共がある日空き家で悪さをしてたんですがエスカレートして暖炉に入れたクッションに火を点けそのまま火事騒ぎになってしまいます。

彼らは勿論素知らぬフリをするんですが子供とは言え嘘が上手い女の子に対し嘘が苦手な男の子スクーティはそれを母親のアシュリーに悟られてしまいます。

アシュリーは児童家庭局に知られまいとスクーティをムーニー達から遠ざけ自分もヘイリーとの距離を置きます。

一方のヘイリーは何も知らないままいつも通りの生活を送るんですが、定職に就かない彼女の生活状況は悪化していきます。

ストリップの仕事は過激なサービスを要求するんで嫌気がさし、ブランドの香水と偽った偽物を売ったり、売春しながらなんとかその日暮らしでムーニーを養うんですがある日はずみでアシュリーに暴力を奮ってしまいます。

その事がきっかけでアシュリーは児童家庭局にヘイリー達の事を通報してしまいます。

ヘイリー親子の元を訪ねてきた職員は暫くの間ムーニーを別の家庭で養って貰うように告げるんですが、それを知ったムーニーはその現実から逃れようとそこから逃げ出します。

夢の世界での時間は残酷にも終わりを告げるように親子を引き離し必死で抗うヘイリーの「ふざけんな!」と言う叫び声は虚しく現実にかき消されてしまうのでした。

その頃ジャンシーのもとに駆け込みいつもは見せない泣き崩れた顔で別れを告げようとするムーニー、それを見たジャンシーは突き動かされたように手を取るとムーニーを引っ張って走り出します。

幼い2人は必死で交通量の多いハイウェイの脇を走りながらディズニーワールドの敷地に入りそのままシンデレラ城を目指します。

いつまでも魔法が解けない事を祈るかのように。

きれいにまとまった後にザワザワとしたディスニーの観客の音声のみのエンドロールがやけに現実味を帯びてて意味深に感じてしまいました。

物語全編を通して子供たちは現実とは無縁の夢の世界に生きているようですが実は子供たち自身もうっすら現実に気づいていたり、大人が必死で隠してくれている事になんとなく感づいていたりします。

敷地内で変質者を撃退するボビーの様子や、チケットバンドを盗んだ男の怒鳴り声、売春の客が風呂を覗いた時などがそうなんですが(目の前でお母さんが友達の母親にボコボコにされるスクーティなんてトラウマ級)

彼らを取り巻くのは紛れもない現実社会で大人ほど深刻に捉えてはないけど子供たちも売春や貧困などの現実をなんとなくは受け止めながらも持ち前の無邪気さでそれを遊びやアトラクションに転換してる。

また大人達も子供たちと過ごす時間だけは現実のストレスから開放され、童心に帰る事ができる。

ヒッチハイクで向かった夜の湖でディズニーワールドの花火を見ながらジャンシーの誕生祝いをするシーンや雨に打たれながら親子でじゃれ合うシーンなんかがまさにそれで凄く素敵なシーンです。

捉え方次第では過酷な現実もそれなりに楽しめる。

この映画はそんな事を伝えてるように感じました。

「フロリダプロジェクト真夏の魔法」子役や母親キャストの演技が素晴らしい

全編に渡って描写される子供たちの日常が可愛くどこか懐かしあもあってとても癒やされるんですが、主役のムーニーを演じたブルックリン・キンバリー・プリンス、仲間のスクーティ、ジャンシーを演じた子役達や母親のヘイリー役のブリア・ヴィネイトの演技が光っていました。

演技と言うより素のブルックリンなのかと思えるような自然な姿は今後他の作品でも注目されそうです。

「フロリダ・プロジェクト」以外では「マーズ」に出演してますね。

また驚きなのが彼女は演技以外に監督や脚本も手掛けるそうで「Colours」と言うショートフィルムを発表しててあの年齢でマルチな才能を発揮されてます。

ヘイリーの演技もまたブリアの普段の姿のように自然でしたがそれもそのはず彼女は元々Instagramでマリファナ関連グッズを販売する会社を経営していて私生活もヘイリー同様ブッ飛んでたようです。

マイアミに住んで目的もなく同居人とハッパをやりながら過ごしていたブリアがたまたまインスタでアップした下着でダンスしてる動画をフォロワーであったショーン・ベイカー監督が観て出演をオファーしたそうで「フロリダ・プロジェクト」が彼女の記念スべき映画初出演作となったそうです。

映画初出演で高い評価を受けたにも関わらず本人は浮かれるでもなく冷静な様子で女優にとらわれず脚本を書いたりもしているそうです。

「フロリダ・プロジェクト」以外では「Adultland」と言う作品に出演されてます。

味のあるキャストの演技やどこかノスタルジックで幻想的な映像が童心に帰らせてくれる「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」日頃のストレスを癒やしたい人には観てもらいたいです。

 

 

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