映画「ひらいて」感想 わかりにくいけどそれとなく伝わってくるドス黒さと爽やかさがクセになる作品

ヒューマンドラマ

綿矢りささんの同名小説の映画化で「なっちゃんはまだ新宿」「また一緒に寝ようね」の首藤凛 監督が手掛けた映画版「ひらいて」山田杏奈さんと芋生悠さんのショッキングなシーンも話題でした。

出典元:博報堂DY ミュージック&ピクチャーズ【Showgate】ch

原作:綿矢りさ
監督:首藤凛
脚本:首藤凛
キャスト
木村 愛(山田杏奈)
西村たとえ(作間龍斗)
新藤美雪(芋生悠)
竹内ミカ(鈴木美羽)
多田 健(田中偉登)
木村頼子(板谷由夏)
新藤泉(田中美佐子)
西村崇(萩原聖人)
他・・・

映画「ひらいて」あらすじ

クラスでも明るく同性からも異性からも人気のある高校3年の愛はある日、学園祭のダンスの練習中に倒れた美雪を偶然助けた事で2人は運命的な出会いをする。

美雪は愛が1年から片想いし続けているたとえと極秘の交際をしていた。

それはお互い校内では話さず、美雪の手紙だけが唯一のコミュニケーションと言う奇妙なものだった。

ある日、たとえが彼女からもらった手紙を読んでるのを盗み見た愛は、夜の教室に忍び込みたとえの手紙を持ち出してしまう。

その内容を見た愛は美雪とたとえが極秘で交際していることに気づく。

愛はたとえに近づく目的で美雪に声を掛ける。

その日から愛と美雪、たとえの3人の不思議な関係が始まっていく。

映画「ひらいて」感想(ネタバレ)

山田杏奈さん演じる普通なんだけど何処かドス黒い女子高生がヒロインの「ひらいて」、同じように山田杏奈が主演の女子高生を演じた「ミスミソウ」が真っ先に浮かんできました。

あちらは同じドス黒さでもわかりやすかったけど。

そんな何処か影のある愛がたとえや美雪と織りなす不思議な人間模様は観てるものを困惑させわかりづらいです。

でも嫌な感じがないのはなんとなく人物の気持ちみたいなのがニュアンスとして伝わってくるからだと思うし、キャストの演技がそんな微妙な心情を上手く表現してたからだと思います。

主演は山田杏奈さんで、今ドス黒JKを演じさせたらこの方の右に出る者はいないんじゃないかと思えるくらいこの手の役がハマってます。

「ミスミソウ」や「砕け散るところを見せてあげる」などでも深い闇を感じさせる女子高生を演じてますが、今作「ひらいて」の愛は一見明るめなんだけど、心は空虚で深い闇を抱えていると言うある意味いちばんドス黒い役でその難しい役どころを好演されてます。

愛が密かに想いを寄せる男子、たとえ役はジャニーズJr.、HiHi Jetsの作間龍斗さん、「ヴィレッジ」に出演されてます。

勉強が出来る優等生タイプのたとえは頼まれれば誰にだって勉強を教えたり、別け隔てなく気を使える優しくて物静かな目立たない人物です。

作間さんの雰囲気がたとえにマッチしてたのではないでしょうか。

たとえは中学から付き合ってる美雪との関係を親バレを恐れてとは言え不自然なほど頑なに隠しながら、学校では一言も話さないと言う何処か奇妙な関係を続けています。

美雪は糖尿病で病弱で一見影の薄い女子なんだけど、近づく人間がどんな人物であっても優しい笑顔で受け入れてしまう純粋な心を持っています。

たとえから2人の関係を大っぴらにしたくないと言われてることもあり、毎朝早く登校しては誰もいない教室でたとえの机に手紙を入れ、気持ちを伝えるなんともプラトニックな関係を文句も言わず続けてることからもそれが読み取れます。

そんな美雪役は芋生悠さんで役的にハマってたと思います。

彼女は「ユリゴコロ」「牛首村」などにも出演されてます。

ここからネタバレと考察です。

手紙で2人の交際を知った愛はある日、化学準備室で隠れてインスリンを射つ美雪に話しかけます。

純粋な美雪は不安に思いつつも糖尿病について親身になって語りかけてくる愛を受け入れ、

2人の仲は日増しに縮まっていきます。

ある日2人で映画を観た後に行ったカラオケで愛は美雪にキスします。

そこには純粋な美雪に対してからかってやろうと言う気持ちと愛おしい気持ちが交錯した思いが見え隠れします。

その後、愛はたとえに告白をするんですが、愛は彼に「何もかもが嘘っぽい」と自分を見透かされたような言い方をされフラれます。

翌日、美雪の部屋で愛はちょっとした美雪の勘違いを利用して禁断の関係を持ってしまいます。

愛の口づけを戸惑いながらも受け入れてしまう美雪はそのまま愛のなすがままに身体を許します。

その日から、愛の中で何かが変わっていきこれまでの普通でどこか空虚で無意味な学校生活を壊すように、彼女は期末試験を放棄したり授業を途中で抜け出したり問題を起こします。

振り向いてくれないたとえと、全てを受け入れてくれる美雪との間で愛は翻弄されるように暴走を繰り返す中、遂に美雪との関係を解消します。

ある日愛はたとえの父が暴れていると連絡を受けた美雪がバス停に慌てて向かうのを見つけ2人はたとえの家を訪ねます。

勝手に勉強して大学に受かった息子が彼女と上京しようとしていることに納得いかない父親は美雪とたとえに暴言を吐きますが愛はその瞬間父親を殴り飛ばします。

3人は父親から逃げ出しますが、その時の愛はいつのまにか2人と自然に本音で語れるほどに変化していたのでした。

卒業式を目前に控えた教室で愛は机の中に美雪からの手紙を見つけそれを読み終えるとなりふり構わず美雪の教室に入り彼女に「また一緒に寝ようね」と囁くのでした。

結局この作品が何を伝えているのかは観る人によっていろんな解釈ができると思いました。

一見、人気者の愛ですが実は輝いた特別な存在に見えて学園祭のダンスでは参加してなくても誰も気が付かない薄っぺらい存在だったのです。

そんな自分の居場所がなく心から信じられる友達もいない彼女は無難に立ち回ることで存在価値を見出していたんですが美雪と出会って触れ合うことで彼女の中の何かが少しずつ変わっていきます。

美雪と肉体関係を持ったり、学校で問題を起こしたり、一見無茶で無意味な行動のようですが彼女はそうやって少しずつ葛藤しながら自分の居場所を見出していったんだと思います。

最初は打算的な考えと憧れや愛情が入り混じったような複雑な気持ちで始まったと思われる美雪との行為ですが、触れ合ってるうちに、その時だけは本当の自分でいれるし信頼できる友達だと思ったのではないでしょうか。

美雪の方も過去のある出来事から他人の為に生きると考えるようになって、愛と出会って触れ合ったことで人の為に生きている喜びや幸せを見い出せたんだと思います。

また愛が美雪と知り合わなければたとえにも告白はしなかったし、その時の会話では打算的な中にも一瞬の本音のようなものも見えてあの時の

行動が閉ざしていた心に良い意味で刺激を与えたように思えました。

告白されたたとえの方もあの時は愛に対しては心を開いてなかったし言われるがままにハグやキスをしたのは愛と同じように見せかけの愛情で応えたんだと思いました。

この作品の登場人物は皆、愛と同じような心を閉ざしたような部分があるんだけど、その一方で誰かしらは心から信用できる心をひらける相手がいます。

でも愛にはそんな相手が1人もいなかった。逆にそれだけ深い闇を抱えてたからこそヒロインとして成り立ったのかなとも思えます。

そんなヒロインの愛が美雪やたとえと付き合ううちに少しずつ心を開けるようになりたとえの父親の一件で彼女は大きく成長します。

卒業前の桜を蹴り倒すシーンからはこれまでの自分に決別しようとしてるのが伝わってきましたし、そこに現れたたとえに言った言葉からは恋愛感情を友情に昇華させたようなどこか吹っ切れた思いが伝わってきました。

逆にそれを受けたたとえの方が心をひらいた愛の言葉に気圧されたように一瞬、躊躇したようにも感じましたが、愛はそこでけじめをつけるように「好きにならないでしょう!?」と言って退けます。

ラストシーンで美雪に「また一緒に寝ようね」と言ったのは身体の関係ではなくずっと友達でいようと言ったニュアンスだったと思います。

原作も読んでない個人的な解釈ですが、最初の何処か暗くモヤモヤした雰囲気が最後にはスッキリと晴れて良くも悪くもバランスのとれた三角関係だったと思え納得のできる結末でした。

登場人物の微妙な心理描写が面白い「ひらいて」観るたび新たな発見がありそうな作品です。

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