映画「ハケンアニメ!」感想 主人公より脇役が魅力的なスルメ作品!?

ヒューマンドラマ

辻村深月 氏の原作の小説を「水曜日が消えた」の吉野耕平 監督が映画化した「ハケンアニメ!」吉岡里帆さん主演で脇を固めるキャストも中村倫也さん、柄本佑さん、尾野真千子さんと豪華でそれだけでもワクワクしてしまいます。

出典元:東映映画チャンネル

監督:吉野耕平

脚本:政池洋佑

キャスト

斎藤 瞳(吉岡里帆) 行城 理(柄本 佑) 王子 千晴(中村倫也) 有科 香屋子(尾野真千子)
並澤 和奈(小野 花梨) 群野 葵(高野麻里佳) 宗森 周平(工藤阿須加) 根岸(前野 朋哉)
越谷(古舘 寛治) 関(六角精児)他・・

(映画「ハケンアニメ!」あらすじ

アニメ監督の斎藤 瞳は国立大卒の公務員から転職しアニメ業界に入った新人監督で彼女の幼少期は貧しい家庭に育ちアニメのような夢や魔法と言った空想の世界が嫌いで現実的な少女だった。

そんな冷めた少女が周りから相手にされるはずもなく友達もないまま大人になり無難な公務員の生活を送っていたある日、

王子 千晴監督の手掛けたアニメ「光のヨスガ」を観て自分と同じ平凡な主人公が活躍する姿に感銘を受けたことでアニメ製作会社の面接を受ける。

面接で「誰かの力になれる漫画を創って王子監督を超えたい」と真っ直ぐな瞳で答えた日から7年、彼女は遂に監督としてワンクールデビューするまで漕ぎ着けたのだった。

瞳の創るアニメのタイトルは「サウンドバック 奏の石」で「サバク」と言う愛称で呼ばれ、土曜の夕方5時枠と言う大抜擢だった。

更に裏番組で王子監督の「運命戦線リデルライト」「リデル」と視聴率を掛けて戦うバトル形式と言う大々的な取り上げられ方で監督デビューにしてはややハードルが高いものだった。

監督として何もかもが初めてでガチガチに緊張したまま気持ちだけが前のめりな瞳は、スタッフともスムーズな連携が取れない上、起用してくれたはずのプロデューサーの行城はビジネス優先で作品第一の瞳と噛み合わない。

果たして瞳の監督デビュー作「サバク」は大成功を収め覇権を獲れる「ハケンアニメ」になれるのか!?

映画「ハケンアニメ!」感想(ネタバレ)

辻村深月 氏の原作はまだ読んだことないんですが、映画版「ハケンアニメ!」の感想をまとめていきます。

内容はごく普通の人間ドラマでそこにアニメ制作の世界が盛り込んであり新鮮味がありました。

ストーリーとして感動できるんですが、アニメ制作現場に馴染みがないんでスタッフや職種の関係性や工程がわかりにくく初見ではあまり話が入らなくピンと来ない部分はあります。

映画の所々でアニメの名フレーズが使われたり、声優に「ウマ娘 プリティーダービー」の高野麻里佳さんなど実際の人気声優が参加してたり全編にアニメの魅力が詰まってます。

また、映画の中のワンシーンの演出程度で使われるアニメが実際にプロが創ったらしくしっかり作り込まれてます。

「リデル」の最終回なんか真剣に見入ってしまいました。

物語の軸としては憧れの監督のような作品を創り更にその監督を超えたいと言う夢を持つ新人の女性アニメ監督がいて、気持ちばかりが空回りしている。

そんな監督に、業界を熟知したプロデューサーが厳しくもさりげないとこで目を掛けて成長させていくというものです。

斎藤 瞳は局の看板を背負ってゴールデンタイムで他局のアニメと視聴率を競えるアニメを創る依頼を受けます。

相手は憧れだった王子千晴監督で瞳がアニメ業界で監督になったのも彼がきっかけでした。

突然の大抜擢に瞳は監督として未熟なのに成功したい気持ちだけが先走ります。

要領を得ない指示を出したり、幼少期の経験から人を信用しないとこがあり、スタッフとの信頼関係は希薄で現場にはいつも重苦しい空気が流れていました。

唯一の味方と言えるのは宣伝の越谷、制作の根岸でしたがお調子者2人は影では瞳を代打の監督と批判していて、そんな関係のスタッフとの番組制作はスムーズに進むはずもなく、

ビジネス最優先の人事部上がりのプロデューサー行城とは意見が食い違いいつもぶつかり合っていました。

行城は作品作りに集中したい瞳を雑誌の取材写真撮影やSNS、ラジオ番組やスポンサーとの会食と言った制作とは無関係なことに連れ回す毎日でした。

ある日、瞳は憧れでもある王子監督との対談に臨みますが気負うあまり「サバク」が覇権を取ると大胆発言します。

そして、始まった土曜5時枠の覇権を掛けたアニメバトルの初回の視聴率は互角に終わりその後、2回、3回と放送を重ねるうちに「リデル」が徐々に差を広げて世間は「サバク」の既視感などを酷評し始めます。

そんな声に焦りを隠せない瞳は話題作りのため行城が起用したアイドル声優の葵に辛辣なダメ出しをしたり

行城が知らない間に契約した「サバク」とコラボしたカップ麺のCMを街で目にして憤慨しますがどこ吹く風の行城、2人の距離は一向に縮まりません。

一方の王子はプロデューサーの有科を振り回しつつも着実に成果を出していましたが天才ならではの閃きなのか最終回でヒロインを殺したい言う難題を有科にぶつけます。

土曜5時台でヒロインが死ぬアニメは流石にテレビ局ではご法度で、そんな局側と王子の間で板挟みの有科を観てると行城のビジネス優先の一見利己的な行動もプロデューサーとして仕方ないのかと思えました。

瞳は相変わらず低迷する視聴率を打開する策もないまま時間だけが過ぎていくんですが、

いつものように声優の葵にダメ出しをして休憩してると、スタジオで偶然出会った王子にその状況をあっさり見抜かれアドバイスされます。

そのアドバイスはもっと声優が努力してることをわかってやれと間接的に言ってて

これは声優に限らずスタッフ全員に対しても同じで瞳の最重要課題なんですが彼女には伝わらずそのまま第6話を迎える頃には「リデル」に圧倒的な差をつけられてしまいます。

焦る中、行城のビジネス優先スタイルは相変わらずで作品の質なんか二の次だとも取れる態度に瞳はついに激怒して口論になります。

無名の新人監督がどんな質の良い作品を創っても世の中には伝わらない現実をわかった上での行城の行動は、瞳には伝わらずお互いの主張がぶつかり合ってしまいます。

瞳はこんな無駄な事をやる為にこの業界に入ったんじゃないと吐き捨てると、スタジオを飛び出し雨の中をひたすら走りながら無様につまずき倒れて鞄の中身をアスファルトにぶち撒けます。

どうにもならない現実に苛立ちをぶつけるように道に散らばった仕事の相棒とも言えるペンを投げ捨てようとするんですが踏みとどまり、

ボクササイズジムに怒りを発散しに行くと、王子と噛み合わず同じようにモヤモヤを解消に来ている有科と出会うのでした。

2人はそのまま銭湯で汗を流すとお互いの思いを語り合います。有科が「光のヨスガ」に励まされたことを知ると瞳はアニメや「サバク」に掛ける思いを語ります。

有科はその話と王子をリンクさせたのか「作品を届けたい気持ちは監督に負けませんから」と思い立ったようにその場を後にすると王子の無茶な要求に応えるべく行動を起こします。

瞳も今まで考えもしなかったプロデューサーの苦悩や覚悟に気づいたことで行城に対する気持ちも変わりだしました。

それからの瞳はスタッフへの対応も変わり7話目以降再び「サバク」は視聴率を巻き返します。

そんなある日、帰宅中にふと王子の言葉を思い出し葵のSNSを覗いた瞳は、「サバク」の舞台の秩父まで出向き聖地巡礼をして少しでもキャラに近こうとする葵の努力に気づきます。

スタジオに戻るとそこには一人残って練習する葵の姿がありました。

瞳は葵のアニメに対する思いや志を知ると、初めて心から信頼できる仲間として葵を迎え入れます。

それはプロデューサー行城に対しても同じで、ある日越谷、根岸が瞳をフォローする意味で言った行城の陰口に対して怒りを覚えます。

何も知らない2人にこれまで相反しながらも作品のために頑張ってきた自分と戦友のような行城の悪口を言う資格はないと思ったのかも知れません

それほどに瞳は行城を信頼していたのです。

そこに行城が何もなかったように合流して仕事に向かおうとした瞬間、これまでの疲労が祟ったのか意識を失い瞳は気がつくと医務室のベッドにいました。

見舞いに現れた行城は瞳が必死で隠している別の制作会社からの引き抜きの件をサラッと持ち出すと「それが、あなたの夢なんですよね?観てる人に力を与え魔法に掛けたいんですよね?」と7年前の面接で言ったことを口にします。

それを聞いた瞳は面接に行城が立ち会っていて、採用した後もずっと見守りながら新米監督の瞳を売り出そうと必死で動いてくれてた事に気づきます。

越谷、根岸の2人に吹き込まれた代打での抜擢ということも行城は否定し「あなたは代打ではなく最初から4番です。」と言うと今まで他のスタッフに食べられ瞳が中々ありつけなかったエクレアを渡します。

瞳は感極まるの悟られないよう「どうして全部いちご味!?」と誤魔化し涙を流しながらエクレアを食べるのでした。

土曜5時のアニメ対決もいよいよ華僑を迎え視聴率はほぼ同率にまで回復しますが最終回を目前にして瞳は突然シナリオの変更を試みます。

それはヒロインが無くした記憶を取り戻すハッピーエンドから記憶が戻らないまま結末を迎えると言うものでした。

会議で制作の根岸は今更変更は効かないの一点張りですが他のスタッフや行城が助け舟を出します。

「ウチは大手だから目先の覇権を獲れる作品だけじゃなく、視聴率はなくても何年経っても記憶に残るアニメだって創れます。監督の残したいものは何ですか?」と問いかける行城。

その言葉に触発されたように瞳は「もしハッピーエンドじゃなく記憶が戻らなかったとしてもその先に別のハッピーな出来事があるかも知れない」と新しい何かを残すために何かを失う覚悟を皆に伝えます。

それを聞いた行城は「お願いします」と深々と頭を下げるのでした。

最終回の制作に向けて一丸となって取り組む瞳とスタッフに以前のようなぎこちなさは一切なくいよいよ最終チェックへと向かいます。

監督として成長を遂げた瞳がスタッフを率いて廊下を歩いて行くシーンは感慨深いものがありました。

瞳の万人に刺さらなくても誰かしらの胸に刺さって欲しいと言う思いを込めた「サバク」最終回の放送当日、

制作スタッフを始め局の編成部や作品に携わったあらゆる人、瞳の隣室の子供タイヨウくんなど老若男女、年齢を問わない視聴者が「サバク」と「リデル」の画面に釘付けになりその瞬間だけは現実を忘れ魔法の世界に浸っています。

様々な人達の思いが詰まった土曜5時枠のアニメ対決の結果は1位「リデル」「サバク」は2位と言う結果に終わり根岸は悔しそうにするんですが、行城は「まだ終わってない」と何かが残されたように呟きます。

最終回を終えて肩の荷が降りた瞳は溜まった資料の山を片付けながら息抜きのようにベランダで洗濯物を干していると、下の方から子供たちの声が聞こえてきてその中に「何でもあげる!」と「サバク」のセリフを叫ぶタイヨウの姿を見つけます。

昔の自分と同じようにアニメ嫌いだったタイヨウのそんな姿に瞳は感極まり熱いものが込み上げてくるのでした。

ここで映画はエンディングロールに入るんですがその後に

Blu-rayとDVDの売上結果をスマホで見てホッとしたような溜め息をつくと子供のようにジャンプしながら足の裏でクラップして行城が去っていくシーンで締めくくられます。

それを観た瞬間最高な気分に浸れました。

アニメ制作現場を題材にしてあり素人には少しわかりにくいながらも、様々な職種がギリギリのところでバランスを取り合ってひとつの作品を作り上げる様子がどこか建築現場の職人と監督の関係のようで前職がそうだった事もあり親近感が湧きました。

また対照的な2人の監督なんですが天才には天才なりの新人には新人なりの苦悩があってどんな人も悩みながら日々を生き抜いて努力しているんだと思えました。

人を信じることは大切なんだけど勇気が必要で日常にその選択を迫られる場面も多々あります。

どっちを選択するかは自由ですが勇気を出すと瞳のように人間的に成長することだってできる。

この映画は私に何事にも勇気を持って飛び込むことを教えてくれた作品でした。

映画「ハケンアニメ!」は主人公より脇役に魅力がある

この映画のヒロインである斎藤 瞳というキャラは、自分の夢を実現しようと必死になるあまり周囲の人間をおざなりにしてしまうどちらかと言えば身勝手キャラです。

見た目は少し可愛いと言う設定ではっきり言って魅力のない人物です。

成長させる前提だから仕方ないと言えば仕方ないんですが、

そんな人物を吉岡里帆さんが演じたことで観たいと思わせてしまいます。

ある意味主演が吉岡里帆だったから成り立った作品と言っても過言じゃありません。

吉岡里帆さんは「見えない目撃者」では盲目の元警官役と言うシリアスな役を演じてますが、斎藤 瞳の演技と比較してみるのも面白いと思います。

そして脇役なんですがこの作品ではむしろ脇役のほうが際立ってました。

中でも一見、新人監督の瞳を食い物にしようとしてるようで実は入社当時の面接から見守っていたプロデューサーの行城がかっこ良すぎで男も惚れそうな勢いです。

映画全編を通していちいちかっこ良かった行城を演じたのは柄本佑さんで、淡々とロボットのように事務的な感じを前面に出しながら人間味のある優しさをさり気なく出す演技が絶妙でした。

最後は恋愛関係になるのも面白そうだと思ったんですが、それは王子千晴と有科香屋子が見せてくれました。

有科はマイペースでわがままな王子に振り回されながら

天才と呼ばれるプレッシャーに押し潰されそうな彼と、伝説と言う肩書きがいつまでも付いてまわる自分とを重ねるようになり、

天才と言う名の上にあぐらをかくことなくアニメと必死に向き合う職人の姿を見て彼の役に立ちたいと考えるようになります。

おそらくそこには何処か放っておけない恋愛感情みたいなものがあったんだと思います。

有科を演じた尾野真千子さんはその辺の微妙な心情の変化を上手く演じられてました。

また王子千晴を演じた中村倫也さんは最高としか言えないくらいハマってて、クールなキャラを演じてる王子が時折見せる素の面白さと言うか可愛さみたいなものを上手く表現されてました。

姿をくらませて海外から帰国した体で対談に臨んだ時、会場で有科にブッとばされるシーンや海外に行ってなかったことが有科にバレたシーンなんか腹抱えて笑っちゃいました。

ぶっ飛ばされたシーンで王子は有科が自分の胸に飛び込んでくるのを想像してるんですが、もしかしたらこの時点で王子は彼女に好意を持ってたのかも知れません。

そんな2人が「リデル」最終回でヒロインを殺す殺さないでぶつかり合うんですが、最終的に王子は信頼している有科に選択をさせます。

王子に魅了された有科はテレビ局の反対を押し切る形でヒロインを殺すことに踏切り彼もそれをしっかりと受け止めます。

このシーンの中村倫也さんの表情はまさに天才監督で「まぁ見てろよ」って雰囲気がかっこ良かったです。

覇権を獲った後ちょっとした告白のシーンがあってタクシーの車内でシレッと冗談のように「結婚してあげてもいいよ」と王子が言った後お互いに「はい!?」と言った後どうなったのか気になるところです。

あと、恋愛といえば「サバク」の舞台秩父でスタンプラリーの企画をした和奈と周平のやり取りも良かったです。

リア充を勘違いしてたくだりの和奈役の小野花梨さんの微妙な表情が良かったです。

あとはチョイ役ながら存在感を放ちまくってた関役の六角精児さんの演技が好きです。

「ハイハイ」と言いながらお茶をすするだけとか、「声がイイ」と声優のレベルアップを喜ぶシーンとかちょっとしたシーンだけどメチャクチャ味がありました。

魅力的な脇役達に支えられ成長するヒロインの姿にいつの間にか見入ってしまう「ハケンアニメ!」何度も見たくなるスルメ作品でもありました。

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