「ボーイ・ミーツ・ガール」「ポンヌフの恋人」のレオス・カラックス監督の初英語作品でミュージカル作品でもある「アネット」、監督自ら実の娘(ナスチャ)とともに出演している冒頭から面白そうです。
監督:レオス・カラックス
脚本:レオス・カラックス
ロン・メイル
ラッセル・メイル
キャスト
ヘンリー(アダム・ドライバー)
アン(マリオン・コティヤール)
指揮者(サイモン・ヘルバーグ)
アネット(デヴィン・マクダウェル)
ドクター(古舘寛治)
看護師(福島リラ)
ヘンリーを告発する女(水原希子)
「アネット」あらすじ
スタンダップコメディアンのヘンリーとオペラ歌手のアンは愛を育んだ交際の末、結婚し娘のアネットを授かるがアネットが生まれて暫くすると夫婦の関係に陰りが見え始める。
「アネット」感想 (ネタバレ)
ミュージカルに勝手な先入観を持ってこれまでは避けて来たミュージカル作品「アネット」を敢えて観賞したんですが思いの外楽しめました。
王道のミュージカルとは違うのかも知れないけど今作は少しダークなストーリーでそれが功を奏したのかも知れません。
ストーリーとしてはヒューマンドラマで序盤はヘンリーとアンのラブストーリーでミュージカルが苦手な私は少し退屈に感じましが、アネットが生まれてから徐々に不穏になっていき物語に変化が出てきて面白くなります。
この作品のいちばんのポイントとも言えるのがアネットが何故か人形で生身の人間じゃないことです。
初めは違和感でしかないんですが、物語が進むに連れて不思議と感情移入できてしまいます。
おそらく人形がとてもリアルで精巧に作られていて表情や動きなども豊かだったのがひとつの理由だと思います。
また人形だったからこそ歌いながらの演技や宙吊り等があるシーンの演出ができたんだと思います。
逆にあれが生身の人間だったら同じ演出や演技をさせてもおそらくあそこまでの表現は不可能だし仮に出来たとしてもとんでもない時間を要したに違いありません。
そう言った意味で監督の作戦勝ちだったのではないでしょうか。
そんな人形を相手に父親と母親を演じたのは、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールです。
ヘンリー役のアダム・ドライバーは「スターウォーズ」シリーズのカイロ・レン役としても知られてますね。
今作でも心の奥深くに闇を持ったコメディアンを怪演されてます。
またミュージカルには必要不可欠な歌も味のある歌声で魅了してくれました。
アン役のマリオン・コティヤールは「TAXi」シリーズや「ロング・エンゲージメント」「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」などに出演され数々の賞を受賞されてる実力派です。
私生活では「世界でいちばん不運で幸せな私」で共演したギョーム・カネと交際し2011年には男の子を出産してます。
また、環境保護団体グリーンピースのメンバーとしても活動されてます。
ラストで赤ん坊から成長したアネットを演じたのはデヴィン・マクダウェルで2014年生まれの9歳とは思えない歌声と表情は圧巻でした。
またこの作品で面白かったのが、脇役に古館寛治さん、水原希子さん、福島リラさんなどの日本の有名な俳優さんが起用されてたあたりです。
福島さんは看護師、古舘さんはドクター役でアネットを取り上げる役を演じてますが、普段邦画で見慣れてる古舘さんから英語のセリフと歌が自然に発せられると逆に違和感を覚えるくらいでした(笑)
2人の後のシーンで登場してヘンリーを告発する女性を演じた水原希子さんも古舘さんばりに歌ってくれるのを期待したんですがソロバートが聴けなくて少し残念でした。
でも、海外の映画でこれだけ日本の俳優さんを観ると嬉しく思えました。
因みに水原希子さんは坂本龍一さんの推薦での出演だったようです。
ここからネタバレです。
熱愛の末、結婚した2人の間に生まれたアネットでしたが、アネットが生まれた後のヘンリーは女性問題や、交際した女性への暴行で訴えられたり仕事のほうでも行き詰まりを見せ始めていました。
すれ違っていた2人でしたが世間の目を欺こうとアネットを連れて自家用の船で航海の旅に出ますが、ある嵐の夜、一家に不幸が襲いかかります。
酔ったヘンリーが甲板で悪ふざけしてアンに纏わりつきダンスしていた拍子にアンは海に落ちてしまいますが、彼は助けようともせずアネットを連れて避難用のボートで逃げてしまいました。
とある島に打ち上げられた父娘でしたが突如アネットに不思議な力が芽生えます。
満月の光に照らされたアネットはまだ赤ん坊ながらアンそっくりの歌声で歌い始めたのでした。
驚きと脱出の披露で意識が朦朧とするヘンリーでしたがそこにアンの亡霊が現れアネットに乗り移って夜な夜なあなたのもとに現れると言うのでした。
島から生還したヘンリーはアネットの不思議な力をアンの元同僚の指揮者に見せると彼にアネットを連れて3人で世界を回ってひと儲けしようと唆すのでした。
ヘンリーの思惑通りツアーは大成功を収め一躍スターになったアネットは「ベイビー・アネット」と世に絶賛されますが、そんな不条理な行いはすぐに破綻をきたします。
ツアー先で夜になるとアネットを指揮者に任せ自分だけ豪遊していたヘンリーはいつの間にか彼がアネットに自分がアンと愛し合ってた当時の思い出の曲を教えていた事を知り激怒します。
そして指揮者が自分と付き合う前にアンと懇意にしていたことを知りアネットが彼の子供かも知れないと言う屈辱的な思いに満たされヘンリーは彼を殺してしまいます。
メンバーの1人が欠け行き詰まりを感じたヘンリーはツアーに見切りをつけようと最終公演を開きます。
スーパーボウルのハーフタイムショウの場で大観衆が見守る中アネットは中々歌えずにヘンリーや進行役の男が困っているとアネットは歌う以外で初めて言葉を発します。
聴衆の前で発したその言葉は「パパは人を殺した」と言う一言でそれを受けヘンリーはそのまま裁判の後、有罪となり刑務所に収監されます。
数年後ヘンリーのもとに面会に訪れたアネットにヘンリーは後悔の念を訴えますがアネットは「あなたには私を愛せない」と冷たく言い放つとその場を後にします。
誰もいなくなった面会室でヘンリーの足元には朽ちた人形が転がって見えるのでした。
ミュージカルのマイナス要因として真っ先に浮かぶのがセリフが歌になっていてまどろっこしい部分だと思うんですが、今作は歌詞でわかりにくい部分もあるけどなんとなくニュアンスは伝わるんで置いてけぼり喰らうことなく楽しめました。
またミュージカルって幻想的だったりするけどこの作品は現実的でシビアな内容でラストもバッドエンドなんだけど嫌な終わり方じゃなく悪い行いをした男に報いがあるいわゆる因果応報な物語なんでその辺も好きな要素だったのかも知れません。
コメディアンのヘンリーのよくわかんないシュールなネタや楽屋での集中を高めるルーティーンが何とも言えない面白さだったり、ヘンリーとアンの愛し合う場面は生々しいけど歌っていることもあり中和され独特な雰囲気になってたり、人形を連れての世界ツアーの様子も変な面白さがありました。
また、死んだ後のアンの幽霊が中々にホラーでゾッとさせられたり、皆で歩くエンデイングも斬新で面白かったです。
独自の演出が面白く感じられミュージカル映画もこう言った作品なら抵抗なく観れると思えました。
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